
My new generation Leccino by Ponticelli
このレッチーノは羊の皮を被った狼だ
ロレンツォは2019年シーズンからオリーブオイル生産に本格参戦したルーキーだ。
出来たての新オイルを発表するレジェーロ市オリーブオイル祭りの会場を回っていたら、やけに威勢の良い呼び込み声がけがあり目の前にオリーブオイルのテイスティングカップを差し出された。
第一印象は「彼の隣に立っている落ち着いた雰囲気の年配男性がオーナーで、この若者は展示会に召集された派遣男子だろう」だったが、話をしているうち、このイケメン男子が生産者本人と判明。今まで知り合った生産者たちの中で間違いなく最年少。
彼がぽつりぽつりと語ったストーリーは、3歳から始めたスキーが大好きで中学生になると競技会に出場するほどスキーに熱中して腕を上げていた。大学に入ると、スキーインストラクターの資格を取得、プロ活動が可能になり、冬の間、スイスのサンモリッツのスキースクールで先生を勤めるカッコイイ学生生活を送っていた。
当時は、将来スキーインストラクターを仕事とすることを真剣に考えていたそうだ。ところが、大学在学中に、卒論のテーマに役立つだろうと、あるフィレンツェの実業家が所有していたオリーブ園で実地体験をする機会があり、本業が忙しく、オリーブオイルに興味が薄かったこの実業家は、収穫時期にだけ臨時労働者を頼み、実の摘み取りと搾油所までの運搬を任せていた。ロレンツォもアルバイトとして採用され、朝から晩までオリーブ畑で動き回った。当時のオリーブ園は手入れが全くと言っていいほどされず、荒れていた。自宅にも200本ほどのオリーブを持ち、少しだが自家製のオリーブオイルを毎年作っていたロレンツォにしてみれば、放置されていたオリーブ園の姿は心を暗くするものだったが、その時は割り切ってアルバイトに専念。
その後、大学を卒業するタイミングで、この実業家が、オリーブ園を長期リースすることを決め、借主を募集していることを知った。若者が農業に高い関心を持ち、安全で健康な農作物造りでビジネスチャレンジすることの意義を大学教授達から教えられてきたロレンツォは、これはチャンスと判断し、父親に相談、スタート援助を仰ぎ、実業家と長期リース契約を結んで、オリーブ栽培とオリーブオイル造りをゼロから始める船出をしたのが2018年。
レジェーロから更に登った丘陵斜面に放置されていたオリーブ園で、まずトラック10台分以上の雑木を伐採をした。樹に絡まっていた蔦を外すのも一苦労した。段々畑の構造だった土地を緩やかなスロープに改良しトスカーナ伝統栽培の樹間距離に整理して、しかるべき剪定を行った、更に、近所で馬場を経営している知人からオーガニック肥料として馬糞を大量に貰い受け、痩せていた土地に元気を与えた結果、見事な枝ぶりの樹々となり、風が気持ちよく通りぬける、美しいオリーブ畑が再生された。ここまではロレンツォが大学で学んだ農業栽培と農業工学がとても役立った。
オリーブ畑にはトスカーナを代表する品種、レッチーノ、フラントイオ、モライオーロが栽培されているが、最も樹数が多いのはレッチーノで、それには理由があるんだよとロレンツォが説明してくれた物語は1985年に遡る、1月末トスカーナは記録的な冷害に襲われ、マイナス20度の日が数日続いたため、マイナス10度以下で死滅するオリーブは全滅してしまった。しかし、僅かだが過酷な冷害を生き延びたオリーブもいた。それは冷害、病害に強いと定評のあるレッチーノだった。ロレンツォがリースした畑も1985年に全滅した樹を除去して再植樹がされた。オーナー実業家が専門家の意見を聞き、再度の冷害リスクを考慮して、レッチーノを沢山選び植樹したため、大部分がレッチーノで構成された珍しいオリーブ畑の光景となった。
「レッチーノ」オリーブオイルの特徴と言えば、まろやかでおとなしい風味。フラントイオやモライオーロがフルーティーで多彩でスパイシーな風味を持っているのに比較すると、レッチーノは脇役的な存在だと一般的に評価される。
大量生産を目的とする大規模オリーブ園ではなく、約3500本ほどの小規模栽培ゆえ、量より質にターゲットを定めるのが正解だが、同時に、脇役と言われるレッチーノを主役として輝かせたいのがロレンツォの作戦でした。
2018年は再生したての畑からは、ほんの僅かしかオリーブが収穫できず、オリーブオイルも作れた量が少なく、搾油のノウハウを得るにはあまりにも情報が少ないシーズンでした。そして彼と出会った2019年、差し出されたテイスティングのオイルはまだ未完成で、これから伸びる予感がするものでした。
そして、時は1年流れ、新シーズンを迎えた11月初旬にロレンツォから「搾油所を変えました。最新設備が整っている搾油所です、僕の搾油テクニック知識もぐっと向上しています、今シーズンは自慢できるオイルになりました、ぜひ味見に来て下さい」と連絡が入りました。彼の自宅に用意されていた、テイスティンググラスに注がれていたのは濃いグリーンに輝く美しい「単一品種レッチーノ」。
グラスから1メートルは離れているのに、フレッシュな香りが立ち上がっているのに驚き、思わず、「なんだこのレッチーノは?」と独り言。心を落ち着かせ、気を集中してテイスティング。確かにレッチーノ単一品種に違いはないが、このフレッシュな香りと優しい口当たりで軽快に感じるが、追いかけて出現するシャープな辛みがまろやかさの中に湧き上がってくる。今までの「おとなしいタイプのオイル」という常識を覆す、これは「羊の皮を被った狼」新感覚のレッチーノだ! と彼の顔を見て告げると満面の笑みで、「そうでしょう、こういうレッチーノが作りたかったんです。」「フレッシュでフルーティーで上品、優しいファーストノートとシャープな辛みのセカンドノート。これがレッチーノだと今までの常識では気がつかないですよね? これって主役になれますよね?」と目を輝かすロレンツォ。
常識を覆す「新感覚の単一品種レッチーノ」に惚れ込み、日本でデビューさせようとその場で決めたオイルをお届けします。